ニセモノの白い椿【完結】


最初はランチだと言っていたはずが、『窓口担当だと昼休憩は不確定だから、夜ごはんにしよう。水曜日は定時上がりを推奨されている日だから、なおさら確実だ』という理屈により、勤務後にレストランに連れて来られている。


表参道支店から徒歩5分ほどの場所にあるレストラン。
イラっとするほどに、女子受けしそうな洒落た店だった。

「俺の、お気に入りの店。さあさあ、二人とも座って」

コンクリート打ちっぱなしの壁に、鮮やかな観葉植物。
使われているインテリアは、バリのリゾートを思わせる。

こういう店をチョイスして、振る舞いもここに来慣れている感じ――。

この人、絶対、遊んでるタイプだ。

「ありがとうございます」

促されるように、通りに面した窓際のテーブル席に着く。
私の隣に白石さん。私の真正面に立科さんが座った。

その時だった。

「――おまえ、なんだよ」

真正面に座る立科さんが、視線を私から移す。そして、私を通り越してどこかを見ていた。
思わずその視線をたどるように振り向くと、こちらへと迷いなく向かって来る木村の姿が視界に入る。

なんでーー?

「通りから、立科たちが見えたから。三人で食事? ここ席一つ空いてるし、俺もいい? ちょうどこれから食事しようとしていたところだし」

「はぁ? おまえなんか呼んでない。勝手に、座るなよ」

抗議する立科さんにまったく構うことなく、その隣にどんと腰掛けた。
それを呆気に取られて見つめる。

そして、白石さんはその表情を輝かせた。

「別に、いいだろう? 何か不都合でも?」

「不都合なんてありません。全然、問題ないです!」

白石さんの声がワントーン上がる。

立科さんが答える前に、白石さんが返事をしてしまったものだから、立科さんは、苛立ったように背もたれに背を預けて腕を組む。

それにしても、木村、一体何を考えているんだ――?

斜め前に座る木村をちらりと盗み見る。
そうしたらタイミング悪く目が合ってしまう。慌てて逸らそうとしたら、意味不明な笑みを送って来た。
それに、思わず眉をしかめてしまいそうになって咄嗟に表情を繕う。

「立科さん、いいじゃないですかー。お二人は同期なんだし、気を使うような間柄でもない。人数多い方が楽しいですよ!」

白石さんのその台詞の後にハートマークが見える。

木村と立科さん、同期だったんだ――。

「白石さん、分かってるよね――」

「何をですか?」

立科さんが、白石さんに向かって”協力してくれるはずだろ?”とでも言いたげな目で訴えている。でも、白石さんは、しらばっくれたようにキョトンとしていた。

「――何でもないよ」

苦虫を噛み潰したような表情をして、立科さんが息を吐く。
白石さんからすれば、当然、立科さんのことより自分の利益を取るだろう。
白石さんが木村に好意を持っているのは疑いようもない事実。好意ある相手が向こうから現れたのだから、このチャンスを逃すはずもない。

この年にもなれば、
人と人との裏の駆け引きが透けて見えてしまうってものだ。

「それにしても、木村さん来てくれるなんて嬉しいです!」

白石さんのテンションは右肩上がりだ。

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