ニセモノの白い椿【完結】
「何、それ」
――楽しくもない時間を無理に過ごすことはない。
それで、私をあの場から連れ出したって言うの?
どういうつもりで。
「まあ、いいじゃない。立科があんまり褒められた奴じゃないことは確かだし。あなたの友人としてはその毒牙から守ってあげたわけだから」
そう言うと、マスターに「生ビール2つ」とまた勝手に注文していた。
木村の真面目なのか適当なのか、判別できない発言に溜息を吐く。
「守るって……。木村さんなら知ってるよね? 私が、あんな言葉にコロコロ騙されるような純粋な女じゃないってこと。心ん中、真っ黒に汚れきってるんだから。立科さんになんてなびくわけないわ。それより、いいの?」
仮にも同期だ。それも男同士。横のつながりもあるだろう。あんな風にあからさまにバカにするようなことをして大丈夫なのだろうか。
「明日、立科さんに何を言われるか分からないよ? どんな奴だとしても同僚なんだから。少し考えた方が――」
「いいの、いいの。俺にとっては、あんな奴、取るに足らない奴だから」
ひらひらと手のひらを振り、へらへらと笑っていた。
運ばれて来たグラスを合わせ、ぐいっと最初の一口を飲み干す。
さっきレストランで飲んだお高めのワインの何倍も美味しい。
「――それにしても、生田さん。ほんっとに、腹が立つほど、完璧に装ってるよね」
「え……?」
「立科や白石さんに向ける、表情、言葉、全部。あれ、完璧な対応でしょ。あんなに、ふざけたこと言われてるのに。どうせ、心の中じゃまた相当に悪態ついてるんだろうなって思ったら笑えるけど」
グラスを手にしながら、木村が笑う。
まだその顔には眼鏡が装着されたままだった。どっちの木村として対応したらいいのか、一瞬混乱するも、ここが完全にプライベートの空間だと思い直し、私もオフの自分にした。