ニセモノの白い椿【完結】

「そんな私の涙ぐましい努力を邪魔したのはそっちでしょう? 明日からどうしてくれるのよ。白石さん、完全に私への当たり強くなるよね?」

せっかく、面倒な駆け引きから手を引くべく動いて来たのに、こんな風に木村と抜け出して来てしまったら絶対にありもしないことで怪しまれる。

「白石さんねぇ……。あれ、完全にダメでしょう。人のこと、あんな風にペラペラと。あり得ないよ」

木村がばっさりと切り捨てた。

「ああ、離婚のこと? まあ、あっさり白石さんに打ち明けたのは私だからな。それに、立科さんにバレたこと、別にイヤだとも思っていないし」

「そうなの?」

頬杖をついて、木村が私を見る。

「だって、三十過ぎたバツイチだと分かったら、恋愛対象から外してくれるかなと思って。でも、なんか話はおかしな方へと行ってしまったけどね」

そう言って苦笑する。

「そう言えば白石さん、さらっとあなたの年齢のことも言っていたね。ある意味凄いわ。ああ、怖い怖い。女は怖いよ」

木村が大袈裟に肩をすくめて、残りの生ビールを喉へと通して行った。

「――でも、彼女も彼女で必死だったんじゃないの? 誰かさんに、少しでも見てもらいたくて」

若いうちは、考えが及ばない。いつか必ず自分が三十代になることも、四十代になることも。
若さというものは、ただの通過点でしかないことも。

「”生田椿には本当は裏の顔があってそのうえその顔を木村さんに知られている”なんて事実、白石さんは知らないわけだし。若さでも、人生のまっさらさでも、使えるポイントは何でも使いたい。少しでも他の女よりポイントを稼ぎたい。そう思うのも無理はない」

「寛大なんですねぇ」

木村がピーナッツを頬張りながら、心にもなさそうなことを言う。

「でも、気の毒にもなるけどね。そんなことしなくたって、私は木村さんの恋愛対象には入ってないから大丈夫なのに。無駄な努力ってことよ」

大人で美しい生田椿からは想像できない悪魔のような顔があることを、目の前の男は知っているわけで。それに比べれば、白石さんの発言や行動なんて、可愛いもんだ。

何もかもを分かっている私から見れば、彼女の行動は滑稽でしかない。
そう思う私、本当に、性格が悪い。

「どういうこと? 全然、意味が分かりませーん」

すっとぼけた木村に呆れつつ、はっきりと言葉にした。

「あなただって、全部分かっているんでしょう? 白石さんが木村さんをどういう目で見ているかなんて。木村さんも、そんなことを察せないような純粋で鈍感な男じゃない」

職場と外で人格を使い分けているような男だ。白石さんの視線に気づかないはずがない。

    
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