ニセモノの白い椿【完結】
「生田さんと木村には、何かあるんですか? この前からずっと気になっているんですよ。あいつに聞いても、まともに取り合おうとしない!」
立科さんが私に距離を詰めて来る分だけ後ずさった。
「あ、あの、ここ、道の真ん中ですから。少し、落ち着きましょうか」
なだめつつ、とりあえず笑ってみるけれど、目の前の人の目は、怖いほどに据わっている。
「木村は、いつもそうなんだ。最初から俺なんか視界にさえ入れていない。どこか高いところから見下ろされているみたいで……。視界に入れないならいれないで、そのままでいればいいものを、生田さんのことになると必ず妨害してくる」
立科さんの心の中の木村への感情は何となく理解はした。木村は同期とは言えども”頭取の息子”で、どうしたって同じ土俵に立っているとは感じられないのだろう。
でも、たった一月とは言えども、あの男がそれを振りかざしているふしは感じられない。
”頭取なのは親であって俺じゃない”
いつかそう吐き捨ているように言っていたのを思い出す。
「特別どうという関係ではありませんよ。ただの同僚です。だから木村さんも答えようがないんじゃないですか? なので、あまり深く考えないでくださいね。では、私はこれで――」
立科さんの感情と向き合う義務は私にはない。ややこしいことには首を突っ込まないのが一番だ。社交辞令的微笑みを浮かべて、会釈をした。そして、立科さんに背を向ける。
「生田さん!」
しつこいな!
そう思いつつ、振り返った。
「俺は、本当に、あなたのことをもっと知りたいって思ってる。大真面目です。だから、俺のことももっと知ってもらえるようにしますから!」
人の溢れる歩道で、君は何を叫んでいるんだい。
それも職場の前で。誰に聞かれているかも分からない。
背が高くて体格も良くて、ここの銀行で働いているのだからそれなりの社会的ステータスもある。顔も、悪くはない。他を当たってくれた方が生産的というものだ。
私は、何も答える言葉を見つけられず、もう一度会釈をして立ち去った。