ニセモノの白い椿【完結】


やっと慣れて来た通勤経路ではない帰り道、すべてのものに緊張する。
乗る地下鉄も、木村のマンションへの道のりも、すべて見慣れないものだ。

私が住んでいた下町的雰囲気のある駅じゃない。
木村のマンションがあるのは、東京23区の中でも中心地と言えるのだろう。

見るからにハイソな街に、コンビニがあるかと不安になったけれど、無事発見して安心する。
私の心のよりどころだ。

いつもと同じように夕飯を調達して、木村のマンションへと向かう。

駅から徒歩五分ほどの高層マンション。厳重なセキュリティーを不審者並みにおどおどとしながら潜り抜け、やっとのことで木村の部屋にたどり着いた。
そしてここでも、鍵穴に鍵を差すのに非常に緊張した。

人様の家に、勝手に入るみたいで。
落ち着かないのだ。気分はまるで不法侵入者だ。

意味もなく恐る恐る鍵を回し開錠する。そしてドアを開けた。

明かりを灯すと、廊下を照らした。玄関のすぐ脇にあるドアの向こうが、私に貸してくれている部屋だ。

とりあえず、その部屋に入りドアを閉め明かりを点けて、座り込んだ。

はぁ、入るだけで緊張するわ――。

朝運び出して来た折り畳みのテーブルにコンビニ弁当を広げた。

やっぱり、勝手にリビングやキッチンに入るのは躊躇われて、この洋室で食事を済ませた。

そして真っ白な壁に背をもたれさせた。

部屋着に着替えようか――。とそう思った時だった。

玄関から鍵が開く音がした。

「ただいま。生田さん、もう帰ってる?」

そしてすぐに木村の声が聞こえて来た。


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