ニセモノの白い椿【完結】
「何か困ってない……?」
斜め隣に座る木村の表情が、先ほどまでと打ってかわって私を探るようなものになる。
「どうして?」
「今日、見たから。銀行の前の歩道で」
「ああ……」
あの恥ずかしいやり取りを見られていたか――。
あんなに大きな声で叫ぶからだ。
まったく、困った男だ。
「それに、これまでも何度か、あいつが生田さんに声かけてるとこも」
「……そう」
「何か困っていたら、相談に乗るから」
「今のところは大丈夫かな。でも、立科さんは木村さんの同期なんでしょう? そんなに仲は良くないみたいだね」
立科さんの表情を思い出し、少し聞いてみる。
「同期だというだけの関係だからね。俺は特に何も思っていないのに、何故か意味もなく突っかかって来る。何がしたいのか分からない男だ」
えてしてそういうものだろう。誰かを僻んだり劣等感を感じたりするとき、その相手は何とも思っていない。だから余計に腹が立つ。
「ただ、何かにスイッチが入ると、それに対する執着心だけは人一倍だから。事態が重くなる前に、困ったらなんでも俺に言って」
「分かった」
木村の方を向き頷くと、安心したように木村に笑みが戻って来た。
「生田さんは分かっているようで分かっていないよね」
「何が?」
グラスのシャンパンを一息で飲み干した後、木村が私を見た。
「自分で自分を”綺麗だ”って言うくせに、本当の意味ではきっとそう思っていない」
「……え?」
思わず木村の目を見返す。
「だから、見ていて非常に危なっかしい」
「それは、どういう意味――」
「もう少し自覚してください。自分がとんでもなく綺麗だってこと」
そう言うと、木村はまた油っぽい唐揚げに箸を戻していた。
「分かってるわよ。私が、この世のものとも思えない美女だってことくらい!」
「はいはい」
聞く耳持たず。まるでそんな感じで、適当な返事が返って来た。