ニセモノの白い椿【完結】
「おそらく大丈夫だとは思いますが、正式に決定次第またご連絡します」
支店を出て、その通りで派遣会社の担当の人とは別れた。
せっかく東京まで出て来たのだから、住まいを探そう。
ほぼ決まりだと言っていたし、もし万が一決まらなかったとしても東京で生活していくことの決意は固い。
不動産会社を何件か回った。物件も実際にいくつか見た。でも、結局この日では決められなかった。
久しぶりのヒールの靴と都会歩きで、いつも以上に疲れた。
非常に、疲れた。
空はもう夕方も過ぎて暗闇に覆われ始めている。
何より私を疲労困憊させた理由は――とにかく家賃が高いことだ!
東京って、なんでこんなに家賃が高いんだ?
あんなウサギ小屋みたいなアパートで、8万とかザラだし。
少し駅から近かったり、築浅だったりすると一気に跳ね上がる。
私が今住んでいる2LDKの家賃より高かったりする。
私が選んだ場所が悪いのか?
もっと郊外に行かなきゃ住めないのか?
都会の真ん中で叫びたくなる。
夫からの慰謝料で今は家賃を払って生活している。
私を一方的に捨てたお詫びの額は、200万円。
子どもがいない離婚は、こんなにも軽いのか。
バカにしているったらありゃしない。
そんなお金あっという間になくなる。
離婚調停をしたわけでも弁護士を間に挟んだわけでもない。
完全なる夫の気持ち、ということ。
その額を見た時、言いようもない虚しさを感じた。
私があの男に尽くしたのは、200万相当の価値しかなかったと言われたみたいで。
そして、200万円払ってでも別れたいと思ったということで。
でも、何より、そのお金で生活している自分が一番惨めだ。
だから、絶対、早く自立しなければならない。
疲れた身体に都会の風は、妙に沁みる。
足もとから込み上げる寂しさを振り切るために、歩き出した時だった。
「――椿。どうして、こんなところに……?」
振り向いた瞬間に思った。
声なんか掛けるんじゃないよ。この、最低野郎が!
そこにいたのは、スーツ姿の元夫だった。