ニセモノの白い椿【完結】
「お風呂、いただきました。先に、すみません」
「いえいえ……」
バスルームからそっと廊下に出ると、ちょうど木村に出くわした。
初めて見せる、すっぴんかつ部屋着というラフな格好――。
「じゃあ、おやすみなさい」
木村があまりにじっと見るものだから、慌ててうつむき自分の部屋へと足を向ける。
すっぴんはともかく、部屋で着る服と言えば上下ジャージだ。外で着ているどちらかと言えばきちんとした服との違いに、呆れただろうか。
「おやすみなさい」
背後から、木村の声がした。
この部屋で眠りにつく、二回目の夜。
明かりを消せば、しんとした音が耳につく。
そして、胸の鼓動が鮮明になる。
何度寝返りをうっても寝付けない。
だんだんと苛立って来て、自棄のように硬く目を閉じた。
――翌朝。
あれだけ眠れないと苛立っていたくせに、結局ぐっすりと寝たようで。
ドアをノックする躊躇いがちな音で、目が覚めた。
「ごめんね、生田さん。そろそろ起きないと、遅刻する」
ドアの向こうから木村の声がした。
慌てて目覚まし時計を手にする。
寝られないどころか、寝坊しているじゃないの!
「あ、ありがとう。もう、起きてるから、大丈夫」
何の意味があるのか分からないが、咄嗟に嘘をついた。
「そう? それならいいんだけど」
足音が遠ざかって行くのが分かり、息を吐く。
急いで着替えて、洗面所に駆け込みほんの数秒で顔を洗い、自分の部屋でメイクを済ませた。
慌ただしく部屋を出る。到底朝ごはんを食べる時間などない。
「――もう出られる?」
「う、うん」
既に準備万端の木村が、鞄を手にして廊下に立っていた。
「じゃあ、行こうか」
え、一緒に、行くの――?
思わず目を見開いてしまった。だから、私の思ったことがそのまま伝わってしまったらしい。
「駅まではせめて一緒でもいいでしょう。この辺には誰も同僚は住んでないから」
「そう、なんだ」
二人仲良くご出勤なんて姿誰かに見られたら――そんなことまで心配になった自分に苦笑する。
「地下鉄は、誰がいるか分からないから、駅で別れよう。それなら安心できるでしょ?」
「そうだね。それなら、大丈夫かな」
二人で玄関を出て仕事に向かう。
結婚していた時さえ、こんなことはなかった。
なんだか、妙な気分になる。