ニセモノの白い椿【完結】
「どうかした?」
「う、ううん。ちょっと」
無理に笑顔を作ろうとしたけど上手く行かなかったみたいだ。木村が心配そうな表情をして私を覗き込んで来る。
「気分でも、悪くなった?」
「違う違う!」
本気で心配しだした木村に、慌てて否定する。
「ちょっとね。小さな子供を連れている夫婦を見たら、なんとなくしんみりしちゃって。私にはもうない姿かなーなんて思ったりしたりなんかして。ただ、それだけ」
アハハと笑って、歩き出した。
こんなこと、冗談にでもしてしまわないとシャレにならない。
「それより、お腹空いた。早く、そのオープンテラスとやらに行こうよ!」
賑やかな通りを早歩きで闊歩する。木村に何も言ってほしくなくて、大きく手を振って歩く。
あの人と出会ったことも、結婚したことも――何もかも全部を否定しそうになってしまう。
そんなことをしたら、人生を否定することになって、私は――。
木村は、そんな私を察したのか、そのことについては何も触れて来なかった。
その代りなのだろうか。
「――その創介って男はさ、本当に俺様で。幼稚園からずっと一緒なんだけど、もう、俺なんてそいつの舎弟みたいなもんよ。少し意見しようものなら、『黙れ』、『俺に意見する気か?』って、それで瞬殺。酷いだろ?」
言っていた通りのオープンテラスの気持ちのいい席で昼ごはんを取りながら、木村が面白おかしく喋り続けている。
「それって、例の榊の御曹司?」
「そう。天下人は何やっても許されるんだからな。あの唯我独尊男の尻拭いかつ、調整役。俺って、こう見えて、結構苦労人なのよ」
木村は、わざとらしくしみじみとそう言った。
「……本当に、そうなんだろうね。あなたの面倒見の良さは、子供の頃から培われたものなんだね」
こうして気を使って、困っている人間の世話をして。そういう性分なのかもしれない。
「俺の苦労、分かってくれる? 俺がどれだけあいつの世話をしてやっていたか。あいつは分かっているのかな」
「きっと、分かっていると思うよ」
ペペロンチーノをフォークに巻き付けながらそう答えた。
「――口にしないだけで、木村さんに感謝してると思う」
私みたいに。
今、この瞬間、そこにいてくれることが、私の心をどれだけ楽にしていてくれているか。
そんなこと、絶対に言葉にはできないけど。
「だといいけどね」
意味深に笑って、木村がアイスコーヒーを口にした。