ニセモノの白い椿【完結】
気付けば、心から笑っていた。
木村が繰り出す、過去のどうでもいい話。
それが、とても楽だった。
空の色が少し翳って来た頃、帰途に就く車の中にいた。
心地よい疲労が身体を包む。
「――生田さん、寝てもいいからね」
あまりに心地よくて、ついうつらうつらとしてしまうのに気付かれてしまっただろうか。
「生田さん、助手席に乗ったら、起きているのが礼儀だと思っているタイプでしょ」
まあ、そうだ。元夫の車に乗っていた時、一度たりとて横で眠ったことなどない。
「俺には、気を使わなくていいから。むしろ、俺の運転に全幅の信頼を置いてくれているみたいで嬉しいし」
その横顔は、朝から笑顔のままだ。
その横顔を見つめると、思わずふっと息を吐いていた。
「じゃあ、お言葉に甘えて、眠くなったら寝ちゃいます」
「どうぞどうぞ」
心地いいシートが私の身体を包み込むみたいで、言われたそばから、私は意識が遠のいて行った。
「――起きて」
ん――。
「生田さん――」
ん……。
遠のいていた意識が引き戻される。
重たい瞼をゆっくりと開けると、いつもにはない距離に木村の顔があった。
「あ、れ……」
私、寝ていたのか――。
何度か瞬きをしてから木村の顔を見上げる。その時、私の肩のあたりからさっと手を離し、自分の方へと戻すのが視界に入る。
触れられた感覚はまったくないから、その手は私に触れることなく戻って行ったということだ。
「もう、着いたよ」
「私、結局マンションに着くまで寝てたんだね。久しぶりに熟睡したかも」
「確かに、よく眠っていたよ」
木村は、すぐさま身体を助手席に預けた。
身近にあった身体の気配は、感じる前に離れて行った。