ニセモノの白い椿【完結】


「運転を信頼していた証、ということで」

私がそう言うと、木村が笑った。

「それは、光栄だ」

――楽しかった。それが、正直な気持ち。
この日、私は楽しかったんだ。

木村が笑う姿を見て、そう思った。



木村と共に暮らすようになって、気付いたことがある。

これまでもそうだったのかどうかは分からないが、木村は帰宅してから夕食を食べることが多かった。残業で遅くなっても、コンビニの袋を抱えて帰って来る。
銀行員である木村は激務のはずだ。当然食事は済ませて帰って来るものだと思っていた。

「おかえり」と出迎える流れで、木村が帰って来た後はなんとなく一緒にリビングで過ごす。
そこで、その日あった他愛もないことを話したりする。
ちょうど木村がコンビニ弁当を空にしたあたりで、自分の部屋に戻る――。

それが、日常になっていた。

こうも毎日帰宅してから食べるのを見ていたら、料理の一つでも作ろうかという気になって来るもので。

自分一人分だったら、まず、料理をしようなんて思わない。
でも、二人分なら、作っても損はない。

相手に気を使わせない程度のものなら、いいだろうか――。

仕事帰り、私は、コンビニではなくスーパーに足を向けていた。

料理をするために買い物をするなんて、何か月ぶりのことか。

野菜コーナーから始まって鮮魚、精肉と流れて行くこの感覚を身体が覚えている。
手際良く、適当な食材を買い物かごに入れて行く。

短時間で買い物を済ませ、足早にマンションに向かった。

自分の部屋でジャージに着替え、キッチンに立つ。

調理道具は――やはり、ほとんど揃っていなかった。あるのは、小さめの鍋だけ。

調理器具も買っておくんだった。

仕方がないので、小さな鍋をフライパン代わりにして、そぼろご飯と味噌汁という簡単なメニューを作った。あまり気合の入り過ぎたものを作れば、気を使うだろう。

卵とひき肉のそぼろと、野菜をたっぷりと使った具沢山の味噌汁。

栄養バランスはそこそこいいはずだ。

時計を見れば、七時半を過ぎたところだった。
先に食べておけば『残り物でよければ』と言える。
そう思って、器によそっていると、玄関の鍵が回される音がした。

「ただいま。……あれ?」

玄関の方から木村の声が近付いて来る。

「何か、いい匂いが――あっ!」

リビングダイニングに姿を表したと同時に、木村が声を上げた。

「料理……。生田さん、料理したの?」

目をまん丸くしてどかどかと近付いて来る。

「帰り、早いね」

「だって、今日は水曜だし」

水曜は、あのバーで飲んで来るんじゃなかったか――。

そんなことを思っていると、再び大きな声が聞こえて来た。

「めちゃくちゃ美味そうな匂いなんですけど!」

私の背後から顔を覗き込ませる。
不意に近付いた身体に、思わず肩がびくっとした。

「も、もしよければ、木村さんもどうぞ。一人分も二人分も作る労力は同じだし。コンビニ弁当よりはましじゃないかな」

そう言うと、木村が驚く。

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