ニセモノの白い椿【完結】


「作ってもらったんだから、片づけは俺がやります」

そう言って、木村はワイシャツを腕まくりすると、私を押しのけるようにキッチンのシンクの前に立った。

「お坊ちゃまは、洗い物なんてしたことあるの?」

「それくらいできるよ。それに、最後はこれがやってくれるから」

木村が作り付けの食器洗い乾燥機を指差した。

「使われた形跡がまったくないけど、大丈夫?」

「スタートボタン押すだけでしょう?」

やっぱり、その顔は使ったことないな――。

「食洗器はね、食器を入れ込むところが一番のポイントだから」

そう告げて、ぱぱっと格納庫に食器を効率良く並べた。

「なるほど。今、ばっちり見ていたから、次からは俺がやります。任せてください」

胸を叩く木村に笑ってしまう。

「木村さんは、きっといい旦那様になれるね」

「……そうかな」

あれ。私、何かおかしなことを言っただろうか――。

木村の表情がどことなく陰る。

「そんなことより、今日は、ありがとうございました。本当に、美味しかった」

私に向き合って立つと、気を取り直したように木村が言った。

「いえ。あれくらいでいいなら、いつでも」

「うん」

笑顔を残して、木村は自分の部屋へと戻って行った。その背中を、不思議に思いながら見つめる。

あの人の心の奥には、どんなことが横たわっているのだろう。

見せているようで何も見せていない。
そんなことを感じる時がある。


それでも、木村と過ごす毎日が、いつの間にか当たり前にそこにあるものになっていた。

時間が許せば食事を共にした。どうでもいいことを言っては笑って、時には憎まれ口を叩いて。それでも最後は笑っている。

そんな毎日のなかで、気付けば6月になっていた。

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