ニセモノの白い椿【完結】
よくよく考えてみれば、確かにあのマンションにはまったく生活感というものが感じられなかった。
たとえ物持ちの少ない男性だとしても、暮らしていればそれなりに何か暮らしているということをうかがえるものが置かれているはず。
でも、家具以外のものがほとんど見当たらなかった。
じゃあ。なんで――?
私が、いるから?
私のため……。
男に後をつけられた私が怖くないようにと、そう考えたのか。
そう思うのは、自意識過剰、だろうか。
木村が帰宅するのを待って、切り出してみた。
ネクタイを緩めながらソファに腰掛けた木村のそばに、私も座る。
私を見て、小さく息を吐くと気まずそうに木村が答えた。
「――ここは、俺の隠れ家」
「隠れ家……?」
「実家にいるのに息が詰まった時、一人になりたい時、そんな時にここに来る。だからつまり、今はそういう状況、ということかな」
ここは、木村の日常の住まいではなかったのだ。
本当は、家族と暮らしているーー。
「こんなに長い間、 家を空けてもいいの? ご両親は? もし、私を一人にするのが心配だとか、そういう理由だったら、気にしないで。それがどうしても気になると言うなら、私、出て行くーー」
「違うよ。俺がここにいたくている。理由は全部、俺自身」
きっぱりとした言葉とその視線に、口籠る。
私を真っ直ぐに見つめるその目を、どう理解したらよいのか分からない。
その意味を考えようとしてしまう自分がどこかにいて、戸惑う。
そんな私に気付いたのか、木村が私から視線を不意に逸らし、そして軽い口調で言った。
「堅苦しい親といるより、友達と過ごす方が楽しいだろ?」
木村は笑う。
「息が詰まるって、何か、あったの?」
でも、その笑顔は、どことなく不自然なものに感じられた。
「うん。まあ、非常に、頭の痛い問題。いつまでも逃げていても仕方がないんだけどね。でも、今は、少し一人になって考えたいんだ」
「私がいるから一人になれてないと思うけど……」
「それはいいの」
頭の痛い問題ってなんだろう。