ニセモノの白い椿【完結】

「大丈夫。親に黙って家を出ているわけではないし、あなたが気にするようなことは何もないから。ここいいてくれていい」

木村はそう言ってくれたけれど――。

私も早く部屋を見つけなければ。

いつまでも木村に甘えているわけにはいかない。
いつの間にか、物件を探す作業をする回数が明らかに減っている。ここでの生活が居心地よくて、楽しくて、忘れてしまいそうになっていた。

ダメだ。早く、ちゃんとしないと――。

何かが心を留めようとするけれど、それが何かについては追及するのをやめておいた。



それからすぐのこと、母親から電話が来た。

(小包を送ったけど、ちゃんと届いてる?)

いつもの呑気な母親の声だった。

「小包……」

まずい。私が今アパートにはいないこと、同僚の男と一緒に暮らしていること、それを誰にも言っていなかった。言えなかったのだ。

言ったら、絶対に必要以上に誤解されて心配されるのが目に見えている。

(届いたの? 届いてないの?)

「あ、ごめん、不在者通知に気付いてなかった。すぐに再配達してもらえるように手配する」

そうだった。郵便物は全部、あのアパートに行く。
そんな当たり前のことを今頃になって気付いた。

木村のマンションで暮らし始めて約半月以上。その半月分の郵便物が溜まっていることになる。

(頼むわよ。野菜なんかも入ってるだから、あまり時間が経つと腐るじゃない)

「はいはい、分かりました。すぐやるよ。じゃあ――」

切ろうとした電話に、母親の甲高い声が滑り込んで来る。

(椿、東京はどうなの? 危ないこと、ない?)

まさにタイムリーな話題。

「ま、まあ、東京は都会だからね。いろいろ大変なこともあるけど、なんとか慣れて来たから。心配しないでいいよ。じゃあね!」

これ以上会話をしていても、自分の首を絞めるだけだ。一方的に捲し立てて切ってしまった。

それよりだ。不在者通知票を取りに行かなければならない。
あのアパートに――。

< 93 / 328 >

この作品をシェア

pagetop