ニセモノの白い椿【完結】
「大丈夫。親に黙って家を出ているわけではないし、あなたが気にするようなことは何もないから。ここいいてくれていい」
木村はそう言ってくれたけれど――。
私も早く部屋を見つけなければ。
いつまでも木村に甘えているわけにはいかない。
いつの間にか、物件を探す作業をする回数が明らかに減っている。ここでの生活が居心地よくて、楽しくて、忘れてしまいそうになっていた。
ダメだ。早く、ちゃんとしないと――。
何かが心を留めようとするけれど、それが何かについては追及するのをやめておいた。
それからすぐのこと、母親から電話が来た。
(小包を送ったけど、ちゃんと届いてる?)
いつもの呑気な母親の声だった。
「小包……」
まずい。私が今アパートにはいないこと、同僚の男と一緒に暮らしていること、それを誰にも言っていなかった。言えなかったのだ。
言ったら、絶対に必要以上に誤解されて心配されるのが目に見えている。
(届いたの? 届いてないの?)
「あ、ごめん、不在者通知に気付いてなかった。すぐに再配達してもらえるように手配する」
そうだった。郵便物は全部、あのアパートに行く。
そんな当たり前のことを今頃になって気付いた。
木村のマンションで暮らし始めて約半月以上。その半月分の郵便物が溜まっていることになる。
(頼むわよ。野菜なんかも入ってるだから、あまり時間が経つと腐るじゃない)
「はいはい、分かりました。すぐやるよ。じゃあ――」
切ろうとした電話に、母親の甲高い声が滑り込んで来る。
(椿、東京はどうなの? 危ないこと、ない?)
まさにタイムリーな話題。
「ま、まあ、東京は都会だからね。いろいろ大変なこともあるけど、なんとか慣れて来たから。心配しないでいいよ。じゃあね!」
これ以上会話をしていても、自分の首を絞めるだけだ。一方的に捲し立てて切ってしまった。
それよりだ。不在者通知票を取りに行かなければならない。
あのアパートに――。