ニセモノの白い椿【完結】

「木村さんっ――!」

自分から発せられる悲鳴にも似た声が自分自身を切り裂くようで。

「出て来るな……っ!」

慌てふためいた私は咄嗟に木村の背から飛び出そうとしたけれど、物凄い力で木村の手が私の腕を押えた。

目の前にいる男が、ナイフのようなものを手にして、突っ立っている。

そのナイフを伝う血が男の手にも付着していた。

「や、やめて……」

木村にもしものことがあったら――。

身体中から血の気が引いて行く。

手に傷を負っているはずなのに、私を押さえつける木村の手の力は弱まるどころか恐ろしいほどに強いもので。

「――この人に、何かしてみろ。ぶっ殺してやるからな」

いつもの木村からは想像もできない低く凄みのある声。

「この女が悪いんだろ。一人で歩いて、俺をじっと見つめて。俺は、何も、何も悪くない……っ」

ナイフを持っている方の男が、意味不明なことを喚きながら、足をもつれさせ立ち去って行く。

「き、木村さんっ」

私の前にずっと立ちはだかっていた背中を見たら、たまらなくなって、気付けば木村の手を掴んでいた。

「大丈夫? 病院に――」

「何やってんだよっ!」

怒りに満ちた怒号に身体が強張ったと同時に、強く抱きしめられていた。



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