身ごもったら、エリート外科医の溺愛が始まりました
嫌な予感と共に音を立てて鳴り始めた鼓動は、一向に落ち着きを取り戻せない。
雨に濡れながらどう帰ったのもわからないまま、気付けば自分の独り暮らしのアパートに帰ってきていた。
部屋に入り鍵をかけると、ドアに背を預ける。
静かに目を閉じてみると、見てしまった様々な光景が目の裏、耳の奥で蘇る。
初めに玄関で見た、見知らぬ白いスニーカー。
聞こえてきた生々しい声。
行為に夢中で、入って来た私にも気付かないふたり。
膝から奪われたようにふっと力が抜け、ずるずると靴をはいたまま座り込む。
頭の整理がつかなくて、涙すら出てこない。
本当だったら今頃、突然訪問してきた私に彼が驚いて、部屋にお邪魔して明日の話で盛り上がっているはずだった。
忘れ物はないかとか、明日の飛行機の時間を確認したりだとか、旅行前日という時間を楽しんでいるはずだった。
それなのに……。
さっきまで弾んでいた気持ちは、もうどこにも残っていない。
突き落とされて、踏みつけられて、気持ちはもうズタボロ。
「なんでよ……なん、で……?」
玄関の脇にすでに用意してあるキャリーケースが視界に入ると、次第に見える世界はぼやけて揺れ始める。
今になって頬を流れ落ちていく涙は、拭っても拭っても流れ落ちることをやめなかった。