Pride one
 新婦控え室の扉は、待ち人を受け入れようとして開いていた。穏やかな海を臨むちょっとした展望台のような部屋の窓際に、白いふわふわしたドレスの後姿がある。優月は一歩下がって、扉に貼られていた名前を確認してしまった。そこにはしっかりと茂久田の文字がある。

「ゆず?」
 足音に気づいて、女性は振り返った。声を聞かずに顔だけ見たら、誰なのかピンとこなかったに違いなかった。

「……もぐら?」
「正解、もぐらでーす」
 美波は瞳に涙を滲ませながら笑った。

 気の利いた言葉のひとつも言えないまま、優月は後ろ手に扉を閉める。とりあえずは、このだまし討ちを叱ってやろうとして近寄ると、美波が胸に飛び込んできた。よろめきながらどうにか抱きとめる。

「ゆず、ゆず。来てくれないかと思った」
 美波の声が揺れる。

 大粒の涙をこぼしながら、それでも堪えようと唇を横に結ぶ美波を見たら、胸に押し込めていた複雑な想いが溢れそうになる。もらい泣き寸前の情けない顔を見られたくなくて、優月は美波を引き寄せた。

思いがけない柔らかさに時の流れを感じる。剥き出しの背中に触れた手が、徐々に懐かしい想い出を引きずりだす。
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