Pride one
「いいよ、そんなの。俺だってずっと勝手にしてたし。とにかく泣くなよ、メイクだってダメになるし、俺、こういうときどうしたらいいのかわかんないんだから」

 優月はじっと美波の目を見詰める。

「そうだよね、ゆずが気の回る男だったら、あんなに振られてばっかりのわけないもんね」
「お前失礼なやつだよね」

「ねえ、ハンカチ」
「ない」

 美波は泣き笑いして、優月にもたれかかった。もう一度背中に腕が回される。それから暫く、美波は口を閉ざしたまま、ただ優月に身体を預けていた。

 話したいことも、話さなければいけないことも、きっとたくさんあるはずなのに、そのどれもが美波の覚悟を挫く言葉のように思えてくる。

真っ直ぐ胸に届いた言葉に対して、昔の、そして今この時の感情の微細を上手く伝えられないことがもどかしかった。

「ゆず、最後のわがままきいて」
「なに?」

「キスして」

 美波は顔を上げた。視線が、薄く開いた艶やかな唇に引き寄せられる。女性として意識を向けていることをあらためて自覚して、優月の頬が火照っていく。
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