切ないほど、愛おしい
「ところで、陣に話すのか?」

一通りの片付けを終え、部屋着に着替えた徹さんが私の向かいに腰を下ろした。

「言わない」
と言うか、まだ言えない。

私が借金取りに追われて住むところもなくなっているなんて知れば心配をかけるだけだし、いくらお兄ちゃんの友人とは言え男の人のマンションに泊っている知ればきっと怒るだろう。
今出張中のお兄ちゃんに、余計な心配をかけたくない。

「じゃあ、俺も黙っておくよ。あいつも仕事のトラブルで大変そうだし、住むところが決まって引っ越しの手配が出来るまでは黙っていよう」
「うん。でもお兄ちゃんに聞かれたら、話すから」

どんな事情があってもお兄ちゃんに嘘はつきたくない。
言い訳に聞こえるかも知れないけれど、黙っていることと嘘をつくことは違うと思うから。
だから、

「わかった、好きにしろ。俺からは何も言わない」
「ありがとう」

本当に、徹さんには申し訳がないことをしていると思う。
今回のことがきっかけでお兄ちゃんとの仲がこじれてしまうようなことがあってはいけない。
そのためにも、体調を回復させて住むところを探さないと。
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