きみに ひとめぼれ

あいつと一緒になって僕も俯いていると、その隣で、あいつは大きく息を吸って、大袈裟に吐いた。


「まあ、俺はそれでもいいんだけど」

「……え? なに?」

「だから、別に本田のことがまだ好きでも、俺はいいんだけど、って」


こちらを見るあいつの目は、なんだかキラキラして見えた。

その真意がわからなくて、僕は素直に聞いた。


「え? なんで?」

「なんでって、好きだから」

「本田のことがまだ好きだってわかってて付き合うってこと?

 おまえ、それはきついなって、今さっき言ったじゃん。

 それに、たとえ付き合えたとしても、付き合ってるうちに絶対辛くなるぞ」


「そうかもしれないけど、それでも好きなんだからしょうがないじゃん。

 本田に気持ちが向いたままでも、彼女になってくれたら、それはそれで嬉しいじゃん」


「そんなんでいいのかよ?」

「いいんだよ。好きってそういうもんだよ。

 だから、それでもいいんだよ。

 それでも俺は、坂井さんのことが好きなんだよ」


あいつはまるで自分にしっかり言い聞かせるようにそう言った。

その言葉からは、あいつの本気が不安を打ち負かそうとしているのが伝わってくる。


「まあ、ちょっと利己的かな」


カッコつけて、そんな小難しい言葉を使うんだ。


あいつの笑顔は弱々しかったけど、それでもちょっと前までテニスコートにしがみついて抜け殻になっていた姿とは全然違った。

根拠のない、「なんとなく」の自信に満ち溢れているようだった。


僕はあいつの男らしい姿から思わず目をそらした。

僕も、同じことが言えるだろうか。

すぐに答えられない自分が情けない。



「お前は?」


「え?」



急にあいつの声が耳に届いて、僕は視線をあいつに戻した。

あいつはすごく穏やかな目で、僕を見ていた。


「お前は、どうなの?」




 またその質問。



「まだ本田のことが好きだったら、諦められるの?」



 風が一瞬吹き抜けて、木々をざわつかせた。

 その音以外、何も聞こえない。



何もかも見透かしたようなあいつの目に、僕は息をすることも、体を動かすことも、言葉を発することもできない。

心臓だけが、ドクドクと嫌な音を立て始める。



「……へ?」




情けない声が出た。

でも今はそう返事するので精一杯だった。

呼吸がどんどん荒くなる。



「な、なにが?」




あいつは僕から目をそらそうとしない。

その目に見据えられているのが耐えられなくて、僕の方から目をそらした。


「おまえの荷物、持ってきてやるよ」


ようやく出た声は上ずって、妙に震えていた。


あいつの傍らに放置されたゴミ箱を乱暴にとって、僕は逃げるように教室に向かった。


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