きみに ひとめぼれ
「それにしても、勝見君には本田君のこと知られたくなかったなあ。
はあ、もう最悪。
勝見君にも、かわいそうとか思われてるのかなあ。
ほんとかっこ悪いなあ、私。
せっかく新しい恋が始まったと思たんだけどなあ」
「あいつに、はっきりそう言えばいいじゃん。
本田のことは、もうそんなんじゃないって」
「そんなこと、言えないよ。
園田君もさっきの私の話、聞いてて思ったでしょ?
それは強がりだって。
本田君のこと忘れるために、勝見君のこと好きになってるって。
言ってる自分がそう思うんだもん。
正直私もどっちかよくわかんないし」
彼女は努めて明るく言うんだけど、僕に背を向けていた。
だけど、その震える声から放たれる言葉は、だんだん夕日が落ちて薄暗さが増していく空の中に吸い込まれて消えていくばかりだった。
「もうこんな自分、嫌だなあ」
彼女の小さな声は、薄暗い教室の中を静かにわたっていく。
「こんな私を、勝見君は好きになってくれないよ」
その声に誘われるように足が動いた。
ぐすん、ぐすんと洟をすするたびに、寂しそうな背中が揺れる。
僕はその背中に近づきたくて、触れたくなって、そう思ったら、また足を一歩、二歩と踏み出していた。