きみに ひとめぼれ
他人の恋の後押しなんて、そんなキャラじゃないから。
ましてやこの恋の後押しなんて、そんな役割を僕に任せるって、ほんとヒドイ。
「あいつは……」
僕は覚悟を決めて口を開いた。
「あいつは、イケメンじゃないよ。
それに、口悪いし、意地悪だし、下心だって満載だし、面倒なことから逃げるのが上手くて、ただのサッカー好きなサッカー部員で、パイオニアでもカリスマでもない。
本田とも、広瀬とも全然違う」
僕の口から勢いよく吐き出される悪口を、彼女は呆気にとられた感じでぽかんと聞いていた。
だけど僕はかまわず続けた。
「恋愛とか彼女とかに縁のない奴だからさ、さっき坂井さんにあんなこと言われて、落ち込んで、今もテニスコートの前でひどい顔しながら女子と一緒に、本田のこと見てんだよ。
その情けない姿、坂井さんにも見せてあげたいよ。
そんなあいつ見たら、坂井さんもきっと……」
__なあ広瀬。
あいつの背中は押せないけど、彼女の背中なら、押してあげたい。
「きっと、放っておけないと思うよ」
喉をぐっと締め付けようとする力に、僕は必死で抵抗しながら言った。
「あいつ、坂井さんのこといつも目で追ってるんだよ。
見てるこっちが恥ずかしいくらい。
よく飽きずに見てられるねってくらい。
それがどういう意味か、坂井さんには、わかるよね?」
ここで「うん」なんてはっきり即答されたら、きっと僕は今すぐにでも足からボロボロと音を立てて崩れ落ちていくだろう。
そうなる前に、僕は彼女から目をそらして、言葉を継いだ。
「あいつさ、情けないとこはいっぱいあるけど、かっこいいとこなんてひとつもないよ。
地味で、存在感薄くて、本当に空気みたいなやつで」
「……空気……」
そうぽつりと唱える彼女の声が、かすかに聞こえたような気がした。
「空気ってさ、目には見えないけど、そこには必ずあるじゃん。
あいつは、そういうやつなんだよ。
坂井さんのそばにいられなくても、坂井さんに好きな人がいても、坂井さんがその人のこと諦められなくても、忘れられなくても、あいつを好きかどうかわからなくても、あいつの気持ちはいつだって、坂井さんの近くにあるんだよ。
空気みたいに、無条件でそばにいて、どんな坂井さんのことも、受け止めて、包み込んでくれるよ」
__はあ、何言ってんだろう。
言ってて恥ずかしい。
途切れ途切れに僕の口から出た言葉たちが、ぽろぽろと落ちていくのを僕は見ていた。
言えばいうほど、僕の目には、今にもあふれんばかりの液体が並々とたまっていった。
顔を上げた瞬間、溢れてしまいそうなほどだ。
それならもうこれ以上、言わなきゃいいのに。