溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
* * *

 医学部入学後、自分の進む道がこれでいいのか悩んでいた。

 親が医師だから……たったそれだけの理由で受験した医学部。そう苦労することもなく合格した。

 病院の経営が生きがいの両親は喜んでくれたが、ずっと浪人して医学部を目指していた姉は俺が合格したことで、気持ちが折れてしまったらしく医学部進学を諦めた。

『これでやっと開放された』と言った姉の表情は、悔しさ、悲しさが滲んでいた。

 それで人の夢を奪ったような気がして、後味の悪い思いをしたのを覚えている。

 当然授業にも身が入らない。最低限の授業だけ受けて、あとは図書館にこもる日々が続いた。

図書館にいるからといって本を読むわけでもない。適当な本を広げて視線はずっと窓の外だ。

 そこからは付属高校のグラウンドが見えている。運動部の活動が盛んで朝からたくさんの生徒が活動していた。

 またいないな……。

 陸上部の練習。いつもその子は楽しそうに走っていた。風と一緒になって、グラウンドを駆け抜けていた。

 ただなんとなく毎日彼女を見ていた。今日も元気だな。そう確認するだけ。それでも彼女を見た後はなんだか荒(すさ)んでいる気持ちが若干軽やかになるような気がしていた。

 そんな彼女がもう一週間もグラウンドに現れない。こんなことは今までなかった。

 次に俺が彼女を見つけたのは、実家の病院の屋上で今にも飛び降りそうにフェンスにしがみついている彼女の姿だった。

 その日から何度か彼女が俺に会い来た。俺に好意を寄せているのはわかったが応えるつもりはなかった。けれど怪我から一生懸命立ち直ろうとする姿に好感を持ち、いつしか彼女を心から応援していた。

 しかし病院で会っていた俺たちは、彼女の治療が終わると、それっきりになっていた。
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