溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「ねぇ、なにそのだらしない顔」

 ダイニングで母の作ってくれた夕飯を食べていると、向かいの席から鋭い言葉と視線が飛んできた。

 妹の瑠衣(るい)に言われて、わたしはまだデレデレしていることを自覚して、慌てて顔をもとに戻す。

 けれどほんの少しでも今日のカッコいい和也くんのことが頭に浮かぶと、途端ににやけてしまう。

「ねえ、マジでやめて。気持ち悪いから」

「ちょっと、お姉ちゃんに向かってひどいじゃない!」

 姉妹仲はとてもいい。けれどその言葉はひどすぎる。

「ごめん、でも事実だから」

 はっきりと言う瑠衣にもう一度抗議をしようと思った矢先、わたしのお皿から瑠衣が唐揚げをひとつ盗んだ。

「あっ、楽しみにとっておいたのに」

「え~いらないのかと思って、もらっちゃった」

「もう、知ってるでしょ? わたしが好きなものは大切に大切にあたためてからいただくって」

 そうあたためてからいただくのだ。時間をかけて距離をつめて。

 途端に和也くんの顔が浮かんだ。今日の面接がうまくいったことを思い出してふたたび顔を緩めた。

「ねぇ、話聞いてあげるから、そのニヤけた顔どうにかして」

 さすが姉妹、誰かに話をしたくてうずうずしていたのが伝わったようだ。わたしは嬉々として今日の和也くんとの話を瑠衣に聞かせた。

「はぁ? まだあの男のこと追いかけてたの? 諦め悪すぎじゃない?」

 呆れた様子の瑠衣は、冷蔵庫から缶ビールを二本取り出すと一本をこちらに渡してきた。これは話し相手になってくれるという合図だ。

 プシュッと音を立てて開けると、お互い仕草だけで乾杯をした。

 もうわたしの恋バナを何万回も聞かされたはずの瑠衣だったが、それでもまだきちんと聞いてくれる。普段は辛辣だけど、やっぱりわたしの妹は優しい。

 わたしは、和也くんとの話を、思い出を交えて瑠衣に話しはじめた。

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