溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
　彼が言うきちんと話ができるようになるまでっていうのは、彼女のとの関係が確実なものになってからということ？　わたしは和也くんにとって保険みたいなものだったのかな……。

　見なければいいのに、週刊誌の記事をじっと見つめてしまう。今までに感じたことのない負の感情が一気に押し寄せてきて指先が冷たくなっていく。

「……ちゃん、瑠璃ちゃん？　大丈夫なの!?」

　真鍋さんの声で我に返った。

「あ、ああ……これですよね。本当なんですかね……」

「本当なんですかね……って、中村先生からはなにも聞いてないの？」

　わたしが首を左右に振ると、真鍋さんも険しい顔をした。

「実はちょっと思い当たることがあって、和也くんに聞いたんです。そしたら今は言えないって言われてしまって」

「そんな！　だってこれ……」

　結局こんな形で知ることになるなら、せめて彼の口から聞きたかったっていうのは、わたしのわがままだろうか。

　放心状態でただ雑誌を見つめていると、バッグのなかでスマートフォンが鳴った。取り出してディスプレイを確認すると和也くんの名前が表示されていた。

　わたしは《拒否》のボタンを押してバッグにスマートフォンをしまった。

「ちょっと、いいの？」

　驚いた真鍋さんが慌てた様子で電話を指さしている。

「いいんです。きっと今和也くんの話を聞いたら午後の仕事ができなくなっちゃうので。……事実は変わらないですし」

　真鍋さんに心配させまいと無理矢理微笑んだ。けれどその笑顔が逆に心配をかけてしまったようだ。

「わかった。中村先生のことだからきっとなにか理由があるんだと思う。あの人ああ見えて、お人好しで頼られたら断れないところがあるから」

「はい……」

　慰めて元気になるように声をかけてくれているのに、それに応えられずに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「とにかく、頑張ろう」

　真鍋さんが背中をポンポンと叩いて励ましてくれた。

　それからの午後の時間、わたしは嫌なことから逃げるように仕事に没頭した。
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