溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 彼がかがんで、わたしの顔を覗き込む。それと同時に大きな手のひらが優しく頭を撫でた。

 この人のせいでこんなに泣いてるのに、でも他の誰でもないこの人に慰めてほしい。和也くんじゃないと、なにもかもダメだと思い知らされる。

 まだ涙が止まらないわたしを見て、和也くんが立ち上がる。そしてお財布からお金を出すと、君島先生に差し出す。

「これで足りるか?」

「いや、ここは俺が出します。誘ったのこっちなんで」

 君島先生は手を突き出して、受け取るのを拒否している。

「いや、ダメだ。こいつに関することは、全部俺が面倒みたい」

 和也くんはテーブルにお金を置きながらそう言った。

「それなら彼女にきちんと話をしてあげてください」

「……言われなくても、わかってるよ」

 小さくつぶやいた和也くんがわたしの手を引いた。

「瑠璃立てるか?」

 わたしは涙をなんとかおさめて、その場に立ち上がる。

 和也くんの手が伸びてきてわたしの手を優しく握った。そして君島先生に向かい頭を下げる。

「瑠璃が世話になったな。ありがとう」

「いや、別に中村先生のためにやったわけじゃないですから。瑠璃ちゃん、ファイト!」

 君島先生はガッツポーズを見せた。

「はい。今日は本当にありがとうございました」

 わたしは頭を深く下げてから、和也くんと手を繋いで外に出た。そして店の駐車場に停めてある和也くんの車まで連れてこられた。

「とにかくきちんと説明するから、ついてきてほしい」

 わたしはうなずくと、すぐに和也くんの車に乗り込んだ。シートベルトを締めるとすぐに車が走り出す。

 車に乗っている間、お互いひと言もしゃべらなかった。張り詰めたような緊張した空気が流れる中、車は夜の街を走り抜ける。

「これからレイナさんと会う」

 その名前を聞いただけで、わたしの体がこわばる。
< 138 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop