溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「そんな態度になるのも、わかる。俺のことを信じられるような状況じゃないことも理解している。だけど俺は、瑠璃を裏切るようなことは決してしないから、それだけは信じてほしい」

 運転する和也くんの表情からは、嘘やごまかしは感じられない。

 どんな事実が待っているのかわからないけれど、彼がわたしを裏切っていないというなら、信じようと思う。

 ……だって、わたしの好きになった人だから。

 時間にして二十分ほど。

 車は一軒の雑居ビルに到着した。

「彼女を迎えに行ってくる。ここでボイストレーニングをしてるはずなんだ。瑠璃はここで待っていて」

 わたしは和也くんに言われた通り、車の中でふたりが来るのを待った。

 わたし、あのふたりが並んでるの見ても、平気でいられるかな?

 そんな不安がよぎるが、和也くんを信じると決めたのだ。

 しっかりしなきゃ。

 そう思い、車の外に目を向ける。すると街灯から少し外れている場所でなにかが動いているのが見えた。

 あれ……って人かな?

 目を凝らしてみると、男女が争っているように見えた。

 男が手を振り上げた瞬間、女性がつけていたサングラスが飛ばされた。

「え、レイナさん!?」

 まさかと思いもう一度確認する。それは間違いなく、モデルのレイナだ。どうやら和也くんと入れ違いになってしまったようだ。

 争うその姿を見て、わたしの体が自然と動く。

 急いで車から降りると、その男女のところまで全力疾走する。

「誰か来て! 誰か!」

 大きな声で叫びながら近づくと、男は驚いた様子で怯んだ。

 その隙にレイナさんの手を引いて男から引き剥がす。

「こっち」

 彼女の手を引いて走り出す。ビルの中に入れば助けを求められるはず。

 必死になってふたりで走る。

「痛っ」

 そのとき昔の事故の傷が急に痛みだした。
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