溺愛全開、俺様ドクターは手離さない

　嘘……こんなときに。

「あっ！」

　痛みに気を取られて、うっかりその場で転んでしまった。

「大丈夫ですか？」

　わたしが立ち止まったせいで数歩先にいたレイナさんが戻ってこようとする。

「ダメ、先に逃げて。誰か呼んできてください」

「でも」

　男の目的はわたしじゃないレイナさんだ。だから彼女をまずは安全な場所に避難させなくては。

　そうこうしているうちに、男が追いかけてきた。

「おい、待て！」

「早く、お願い」

「わかりました」

　戸惑っていたレイナさんは、わたしの必死の願いを聞いてビルに向かって走り出した。

　わたしもなんとか立ち上がって逃げようとするが、その間に男が近くまでやってきていた。

「邪魔しやがって」

　大きな声を出し、拳を振り上げた男がすぐ目の前にいた。

　怖くて声をあげることもできずに、わたしはその場でただ目をきつくつむることしかできなかった。

「いやっ！」

　殴られると思った瞬間――。

「お前、なにやってるんだ！」

　大きな声がその場に響いた。すぐに顔を上げてその声の主を確認する。

「和也くん！」

「お前、瑠璃になにをした」

　和也くんは男の腕を掴み、ぐっと捻り上げた。

「いたたたた、はなせっ」

「瑠璃に、なにしたって言ってるんだ」

　ますます強く捻り上げる、男は痛みで苦悶の表情を浮かべていた。

「やめて和也くん、腕が折れちゃう」