溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 和也くんは長い指先でわたしの髪を梳くようにして撫でた。

「泣かせてすまなかった。一番大事にしたいのは瑠璃なのに……」

 きっと今の言葉は嘘じゃない。

 けれどいつか昌美さんが言った通り、彼は困っている人がいたらほうっておけないのだ。

「なあ、抱きしめてもいいか?」

 いつもそんなこと聞かずに強引な彼が、こんなことを聞くなんて本当に反省しているんだろう。わたしがうなずくと思い切り抱きしめられた。その腕の強さから、彼がわたしに向ける気持ちが伝わってくる。

「いつも待たせてばかりで悪いな。でも今回のことで実感した。どれほど瑠璃が大切な存在なのかって」

「そこまで?」

 わたしは彼の胸の中で、顔を上げる。

 すると和也くんは苦々しげな表情を浮かべた。

「ああ。人生であんなに焦ったことはない」

 それは少し大袈裟だと思うけれど、だけどかなり心配してくれていたのはわたしにもわかった。

 これまで長年一方的に想いを寄せるだけだった相手。その相手が同じくらいの気持ちをわたしに向けてくれている。

 その事実に思わず頬が緩んだ。その顔を隠すように彼の胸に頬を寄せる。

「これまでのわたしの気持ちわかった?」

 これまで何度となくわたしが味わってきたことだ。

「ああ、こんな思いをずっとさせてすまなかった」

 和也くんの腕に力がこもる。

「わかればいいです、わかれば」

 わざと偉そうに言うと、和也くんがわたしを抱きしめていた手を緩めた。そしてその手をわたしの額に持っていき、パチンと弾いた。

「痛いっ」

「生意気言うなよ。まあ、そういうところもかわいいと思ってしまう、俺も俺だけどな」

 ケラケラ笑う和也くんにつられて、わたしも笑う。

 ここ数日とても気持ちが沈んでいた。これまで無条件で好きだった和也くんのことが信じられない日々は、わたしにとってとても苦しいものだった。

 だから今ふたりでこうやって笑い合っていることがうれしい。

 傷ついて涙も流した。けれど、そのぶんだけふたりの絆が強くなった気がする。

 ひとしきり笑いあった後、お互いを見つめ合う。どちらからともなく目を閉じ唇を寄せ合う。
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