溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「だろうね。他の子が言うなら〝猫かぶって〟って思っちゃうけど、中村先生に夢中な瑠璃ちゃんが言うなら信用するよ」

「そうなんですよ……って、猫かぶるってどういう意味ですか?」

 あまりいい意味には使われない言葉だ。

「どういう意味って、そのままだよ。世の中には色々な女子がいるからね」

「まあ、たしかにそうですけど」

 君島先生はにっこりと笑うと、この話は終わりとでも言うように店員さんを呼んでいる。

 時々意地悪の片鱗が見えるの、気のせいかなぁ?

 君島先生に多少の違和感を覚えながらも、わたしはやってきた店員さんに注文をした。

「では、君島先生あらためまして、よろしくお願いします」

 グラスを掲げて乾杯をして、食事をはじめた。

 お酒があまり強くないわたしが頼んだのは、カンパリオレンジ。せっかくイタリア料理を食べるので、ミラノ生まれのカンパリを使ったお酒を注文した。ほろ苦いカンパリの味わいとオレンジの酸味が美味しい。

 いっぽう君島先生は白ワインを飲んでいる。

「こちらこそ、よろしく。俺の歓迎会って言ってるけど、瑠璃ちゃんだってまだまだ勤めて日が浅いよね?」

 たしかに君島先生の言う通りだ。

「そうなんですけど、わたしの場合和也くんとはもともと知り合いですし、新入りって感じじゃないですよ」

 産休に入る那夕子さんから、すぐに引き継ぎを受けた。和也くんと働くのがうれしくて、毎日あっという間に時間が過ぎていった。

「いつも元気がよくて、よく気がつくから本当に助かっているよ」

「そんな……まだまだ頑張らないと」

 君島先生は褒めてくれたが、和也くんはそんなそぶりさえ見せてくれない。いつか認めてもらうまで諦めない。

「もしかして中村先生のため?」

 ズバリ言い当てられて驚いたが、素直に答える。

「はい。役に立ちたいんです」

 うなずいたわたしを見て、君島先生は「はぁ」とため息をついた。

「中村先生が羨ましい。俺のこともそれくらい思ってくれるとうれしいんだけどな」

「え?」
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