溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 和也くんがクリニックを去ってから一カ月。彼がいないのが、日常になった。

 クリニックの中では〝先生〟といえば君島先生のことになった。最初は残念がっていた患者さんたちも君島先生の親しみやすい雰囲気と細やかな気遣いに、安心して通院してくれている。

 ただ時々、ふとした瞬間に彼の残像が見える気がしてさみしくなっているのはわたしだけなのかもしれない。

「ほら~、ぼーっとしないで、手伝って」

「あっ、ごめんなさい」

 患者さんがいる診察中はそうでもないのだが、診察が終わったとたん気が抜けてしまう。

 ダメだなぁ……はぁ。

 まだ仕事中だというのに、思わずため息をついてしまった。

「中村先生から、まだ連絡ないの?」

「いえ、時々は返事があるんですよ。時々は」

 わたしが十メッセージを送って一返事があるくらいだ。電話もかけてみるけれど必ずしも折り返しがあるわけない。

 今までだって、そうそう連絡があったわけじゃない。けれど一度距離が近づいてしまったせいか、さみしさは今までの比にならない。

 いい雰囲気だったと思ったんだけどなぁ……でも和也くんのほうが大変なんだから、仕方ないよね。

 落ち込んでいても仕方ない。

 わたしはここで頑張るって決めたんだから。


 そんな日々を過ごしていたある日の仕事終わり。クリニックを出ていつも和也くんが車を停めていた駐車場の前を通る。

 するとそこにはいるはずない和也くんが、車にもたれかかってスマートフォンをいじっている姿があった。

 まぼろし……でも見たのかな?

 そう思っても無理はないほど、彼の姿を見ていない。最後にクリニックで会ってから一カ月会っていないのだ。

 立ち止まったままじっと見ていると、彼が気がついた。
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