溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「間抜けな顔してなにやってるんだ」

「はっ……」

 早く行かないとすぐに車に乗ってどこかに行ってしまうかもしれない。そう思ったわたしが走り出すと「逃げないからゆっくり来い」と言われてしまう。

 そう言われたところで、止まれない。

 懸命に走って彼の前に到着すると、和也くんは顔を曇らせた。

「あんなに思い切り走って足大丈夫なのか?」

 どうやら昔の怪我のことを気にしているみたいだ。

「あのくらいなら、平気だよ。わたしの全力疾走はあんなものじゃないし」

「そうだったな」

 にっこりと笑う和也くんを見て、思わず泣きそうになってしまった。

「元気だった?」

「ああ、忙しいけどな。このくらいは平気だからそんな顔するな。かわいくない」

「ひ、ひどい! もう」

 せっかくの再会なのに。でも、意地悪でもなんでも会えたのがうれしい。

 思わず笑ったわたしの顔を見て、彼も笑う。

「どうかしたの? クリニックに用事なら……」

「いや、お前に会いに来た」

「え? 嘘!」

 声をあげた瞬間、和也くんがわたしの手を引いたかと思うと助手席に押し込んだ。

「時間がないから送っていくだけだ。それでもいいか?」

「もちろんっ!」

 わたしが思い切りうなずくと、和也くんは呆れたような笑顔を見せた。

 ほんの少しの時間だったけれど、和也くんがわたしに会いにきてくれたこと。その事実だけで、あと何年でも彼を好きでいられると思えた。

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