溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「はぁ」

 ため息をついて、待合室の長椅子に腰かけてまわりを見渡す。ついこの間まで和也くんがいたはずのこの場所。彼がいないと思うだけでさみしくなる。

「瑠璃ちゃん、お疲れさま。あれ、どうかしたの?」

 後ろから声がかかって、ゆっくりと振り向く。君島先生だ。

「え、どうした? 体調でも悪いの」

「いえ、ちょっと疲れちゃったなって。あの、戸締まりはしておくので先に帰ってください」

「ん? 俺も疲れたから一緒に休憩するよ」

 君島先生はわたしの隣に座る前に自動販売機で飲み物を買ってくれた。

 けれど手渡されたものを見たときそれをじっと見つめて固まってしまう。

 それはいつか和也くんがわたしに買ってくれた、ミルクティーと同じだったからだ。

 あのときはここに和也くんがいたのに、今はもういない。

 そしてここから先、和也くんはわたしの手の届かないところに行ってしまうのだろうか。

「はぁ」とため息が思わず出て、慌てた。ひとりじゃなかったんだ。

「どうしたの? そんなに大きなため息。疲れてるだけが理由じゃないでしょ?」

 するどい、君島先生。

「なにがあったのか、俺でよかったら聞くよ」

 君島先生は隣に座り、優しく声をかけてくれた。本来ならば関係のない君島先生に話をすることではない。

 けれど今のわたしは、誰かに話を聞いてもらい吐き出してしまわなければ心が壊れてしまいそうだった。

「なにかがあったわけじゃないんです。ただ和也くんがいないのがやっぱりこたえてるみたいで」

 君島先生はなにも言わずにうなずいてくれている。

「今日お昼のテレビ番組に和也くんが出演してて」

「ああ、患者さんから聞いた」

 君島先生も知っていたらしい。

「偶然それを見てしまって、そうしたらなんだか急にすごく彼が遠い世界の人に思えてしまったんです」
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