溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 しかし悪いことは重なるものだ。

 疲れた体で帰宅して早々、わたしのもとに瑠衣が駆け寄ってくる。

「お姉ちゃん!」

「あ、瑠衣ただいま。今日は早いんだね」

「早番だったからね……って、違うの。落ち着いて聞いてね」

 落ち着いてないのは瑠衣のほうじゃないの。

 わたしはそんなことを思いながら、玄関で靴を脱ぐ。手を洗おうと洗面台に向かうわたしの後を瑠衣がついてきた。

 よほど大事な話があるんだろうか。

 洗面台で蛇口のレバーを引いて水を出す。ハンドソープで手を洗いはじめたときに、瑠衣が口を開いた。

「お姉ちゃん、中村さんお見合いするって知ってる?」

 お見合い……? 和也くんが?

 言葉の衝撃が強すぎて、わたしはその場で固まってしまう。

「四つ葉銀行の頭取の娘さんが相手だって……って、お姉ちゃん聞いてる、ねえ?」

 キュッとレバーがもとの位置に戻されて出ていた水が止まる。どうやら固まってしまって動かないわたしの代わりに瑠衣が水を止めてくれたようだ。

「え、うん。聞いてるよ」

 放心状態のままとりあえず手をタオルで拭いた。その間もわたしの頭の中はぐるぐると瑠衣の発した言葉が廻っている。

 ど、どういうこと? お見合いって。

 どうやら勤めている百貨店の外商部から話が漏れてきたらしい。四つ葉銀行は瑠衣の勤める百貨店と取引があるらしく、そのため外商部がよく使われるらしい。

「お姉ちゃん、やっぱり知らなかったの?」

 もちろん知るはずない。もし知っていたら、こんなに動揺しない。

「……なんにも聞いてないよ」

 事実だからそう答えるしかない。初耳だからこそここまでショックを受けているのだ。
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