溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 動けなくなったわたしを見て、瑠衣は腰に手を当ててため息をついた。

「お姉ちゃん、いい機会だから言っておくけど……もう中村さんは諦めよう?」

 瑠衣の言葉にゆっくりと彼女の方へ顔を向ける。哀れむような視線が向けられていた。

「この間お姉ちゃんを送ってきたときに見たけど、ものすごくカッコよかった。それに近い将来ご実家の中村総合病院を継ぐんでしょう? だったら、頭取のご令嬢とのお見合いの話が出ていても不思議じゃないと思う。もう手の届かない人になっちゃったんだよ」

 昼間自分が感じていた不安を、瑠衣に言われて思わず声を荒げた。

「そんなの、今までだってずっと手の届かない人だった。今更言われなくても――」

「お姉ちゃん!」

 興奮したわたしをなだめようと、瑠衣が声をあげる。わたしはハッと我に返る。

「お姉ちゃんだって、わかってるんでしょう? そろそろ潮時だって」

〝潮時〟自分でも何度かそう思うことがあった。けれど今まではなんとか否定してきた。だが今はその否定すらする気力がない。

 今まで和也くんがずっとフリーだったわけじゃない。彼女がいた時期だってある。そのときもショックは受けつつ、それでも諦められなかった。

 だけど結婚となれば話が違う。どんな形であれ永遠を誓い合って結婚するのだ。そうなればわたしの出る幕など未来永劫やってこないのだ。

 和也くん、結婚しちゃうんだ。

 そう自覚したとたん、急に胸が苦しくなった。

 一年間で決着をつけるつもりだった。それが少し早まっただけのこと。

 周りから見ても潮時なら、おそらくそうなのだろう。

 ここで諦めるべきだと思う。

 だけど……。

 いても立ってもいられなくなったわたしは、玄関に向かって駆け出した。

「お姉ちゃん! どうしたの?」

「ごめん、瑠衣。お母さんに帰りが遅くなるって言っておいて」

 それだけ言うとわたしは、先ほど通った道を戻り駅に向かった。


 行き交う人々。そのうち何人かはわたしの方をチラッと見て通り過ぎる。

 それも無理はない。ここは高級タワーマンションの入口。そこにずっと立っているのだから、変に目立っているのだろう。
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