【完】スキャンダル・ヒロイン〜sweet〜
そんな意気地なしに運命の恋を掴む事は出来ないのだろう。
大学から電車を乗り継ぎ、都内のマンションの前に到着する。
その場で立ち止まり、目の前に立ち並ぶビルを見つめる。
人通りの余りないマンションの立ち並ぶ街並み。コートの隙間から冬の冷たい風が通り抜けていく。
こんなに寒いのに、手のひらはびっしょりと汗を掻いている。
勇気を出して…一歩前に踏み出そうとした瞬間だった。道路を颯爽と駆け出した真っ黒のワゴンが、端に寄せられ止められる。
その中から出てきた人を見て、一歩踏み出そうとした足はぴたりと止まる。
どくんと心臓が飛び跳ねて、その姿を見るとそれが確信に変わって忙しい位心臓が騒ぎ出すのを感じた。
「あら?静綺ちゃんじゃない?」
黒いワゴンから颯爽と降りて来た人は、長い髪を風で靡かせて黒いパンツスーツから伸びる足をこちらへ向けた。
「花乃さん…」
久しぶりに会ったけれど、相変わらずモデル体型。
この芸能人並みに美しい人が、過去に真央とそういう関係にあった事。真っ白の肌に美しく長い指が真央の肌に触れたと想像するだけで、嫉妬でぶっ倒れそうになる。
少しも怯むことなく私の前へ立つ。
あの写真を撮らせたのも、探偵を雇って私のプライベートを調べ上げたのも、それを真央に伝えたのも彼女だ。
赤いリップを唇へ乗せて、口角を上げて笑う。
「真央に頼まれていた物を持ってきたの」
「そう、ですか…」