あの丘で、シリウスに願いを
まことが目を凝らすと、薄暗い廊下を歩いてやってくる翔太が見えた。

「洸平、お疲れさん。北山が三郎さんに付いててくれるって言うから任せてきた。
…まこと?」

翔太の声が『まこと』と言った。それだけで切なくて切なくて、まことは涙を抑えることが出来なかった。慌てて目を伏せ、立ち上がる。あんなに会いたかったのに、いざ本人を前にすると怖くなった。

「お疲れ様でした、翔太先生、水上先生。ありがとうございました。私は、これで」
「あ、待って、六平先生」
水上がまことを引き止めようと慌てて立ち上がり、膝の上にあった翔太の上着を床に落としてしまった。

カタンと、床に物が落ちる硬い音がして、何かがコロコロとまことの足元に転がった。
まことは、薄暗いロビーのわずかな灯りを頼りにそれを拾う。

「ありがとう」

差し出された翔太の手にそれを乗せた。

それはベリーヒルズ内の大星堂で一番目立つところにディスプレイされていたベリーピンク色の『シリウス』だ。女性向けと言われていた商品を、翔太が持っているなんて。

もう新しいお相手がいるようだ。仕事中毒といわれても、恋愛ゲームはちゃんとしているのだろう。まことの気持ちは重く沈む。


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