あの丘で、シリウスに願いを
「失礼します。
先生、お弁当お持ちしました。お支払い済みってレストランの人言ってましたけど…先生?」

部屋の中はしんとしている。玄関に靴は一足だけあるが、人の気配が感じられない。

「先生?…入りますよ?」

相変わらずお洒落な廊下を抜け、まことはリビングをそっとのぞいてみた。

翔太はスーツ姿のまま、ソファにもたれて目を閉じていた。その顔には疲労がにじみ、顔色も良くない。数ヶ月前より痩せた気もした。

「水上先生は?シャワーですか?」
「洸平は帰った。柊子ちゃん達に早く会いたいって。アイツも変わったよ。俺と同類の仕事中毒だったのにさ。家族がいるから壊れずにいられる」

先ほど水上に聞いた言葉が蘇る。
翔太はどんどん自分を追い詰めてる。もう水上にも止められないほどに。このままじゃ壊れてしまうと。

同じだ。自分も同じ。
壊れてしまいそうだと、壊れないために必要なのはこの人なのだと、まことの心が叫んでいる。

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