あの丘で、シリウスに願いを
三郎は、目元にシワを寄せた満面の笑みでまことに会釈をした。

「初めまして。いやぁ、坊ちゃんに話を聞いて、シリウスがあなたの思い出の一品だったこと、本当に嬉しかったなぁ。頑張ってきてよかった。職人冥利に尽きますよ」

まことは三郎が差し出した手と握手する。長年働いてきた職人の手はゴツゴツしていた。

「坊ちゃん、泣いて連絡くれたんですよ。今じゃ立派なお医者様になられたというのに、変わらず俺たちのことを気にかけてくれて。
坊ちゃんにゃ、感謝しかないな。ありがとよ」
「何だよ三郎さん、いつもと違うじゃーん。なんかそんなに褒められると調子くるうよ」

照れながらも、翔太はひどく嬉しそうだ。

「一条が潰れかけていたうちに寄越したのがまだガキだった坊ちゃんでね。
“こんなガキを寄越しやがって一条はうちを何だと思ってやがる!”って息巻いた時からもう20年。まさか、こんなに長く続くとは思わなかったよ」

まだ子供だった翔太が、この店を立て直していった姿を思い浮かべる。昔気質の職人の彼が子供の翔太をそう易々と受け入れることはなかっただろう。そこには想像を絶する苦難があったことは間違いない。

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