復讐目的で近づいた私をいくらで飼いますか?
長いキスの後、新は一枚の写真を私に見せてきた。
「見せたい物って…これ?」
「ああ。」
そこには若い頃の私の父親が笑顔で顔が整った男の人と肩を組んでいる写真だった。
その知らない男の人の目元は、新にそっくりで。
「…新のお父さん?」
すぐにわかった。
「純連はあまり会ったことないよな。俺の親父。」
知らなかった。ただの元ライバル企業の社長同士っていう関係だと思っていたのに。
制服を着ている。容姿からして、おそらく父親の高校生時代の写真だろうという憶測が脳裏によぎった。
「……純連の父親と俺の父親は同じ高校に通っていた。同じ部活動に所属していて、プログラミングを一緒に学んでいたらしい。」
何も話さず私は新の話に、ただただ集中して耳を傾けた。
「俺、親父のことがずっと嫌いだった。利益にのみ固執して、人の犠牲なんてどうでも良い、なんて思ってそうだって…」
「………」
「高校生の時、俺は純連の会社の買収計画を立てることを任された。人のためだ、っていうのは口実だと勝手に思い込んだ。……実際は、経営が傾いた旧友の会社を、立て直してあげたいっていうお節介だったんだって……俺は最近知った。」
「立て直してあげたい…ってどういうこと…?」
父の会社のことを思ってやったことだって言うのだろうか。
でも父親は藤堂の社長の命令で海外に飛ばされて、それから私の母親は精神的におかしくなった。療養のため、今では実家に帰ってお婆ちゃんと2人で暮らしている。
「……事実、買収後、私の家族はバラバラになった。今もその現状は変わらない。……『立て直してあげる』なんて上から目線だし、そもそも余計なお世話だったんじゃないの…?」
「最後まで話を聞け。」
「…………」
ムッとなりつつも、再び言葉を発さずに彼の言葉を待った。
「……H.I.T株式会社は独立する。」
「………え…」
それは予想外の内容。
「……純連のお父さんは、近々日本に帰って来る。それで藤堂と提携しながら更に発展に努めていくらしい。」
「……どういうこと…? 独立して…お父さんは日本で前みたいに社長として仕事を再開するってこと…?」
あまりの衝撃に一回では理解できなかった。
「今は完全に藤堂の傘下に入っている形態だった。買収して子会社として働いてもらうよりかは、合併って形を取っていた。」
「……」
「でもそれはH.I.Tの資産、資金を増やすため…。提携しながら、藤堂とH.I.Tの2社で発展に努めていくのが今の目標みたいだ。」
「でも待って。私、あと継ぐつもりなかったし、H.I.Tが独立したとして、お父さんが定年したら…」
「それは俺がなんとかする。純連と結婚すれば、問題ないだろうし。」
サラッとすごいことを言う。簡単に照れてしまう私は敗北感が胸に蔓延った。
「でも、そうなったとして、数年間しか独立できない。今更、独立する必要性がよくわからないんだけど…?」
「70過ぎても働くって純連のお父さん言ってるらしいぞ。なによりも、今回の独立の1番の必要性、メリットは純連のお母さんの精神状態の回復らしい。」
「……お父さんが傍に居て、会社も元に戻って…。そうなれば確かにお母さんは喜ぶだろうけど…。」
「……なんか不服そうだな。お前も喜ぶところだろ? ここは。」
「…………なんか今までの悩みとか何だったんだろうって思うし。復讐考えてた自分がバカらしい。」
「俺に惚れさせて振るってやつか? 失敗に終わったな」
「…………別れましょう。今までありがとうございました。楽しかったです。」
「ものすごい棒読み。」
クスクスと笑いながら、新は私を抱きしめる。
私の家族が振り回されたという事実は明確だ。ここ数年、新に対しての憎悪だけで突き動いてきた私にとって、なんともやるせない大団円。
(ん…?いや、ちょっと待てよ…。)
「復讐のこと何で知ってるの!?」
新に言ってない。内緒にしていた事柄だ。
「なんで…って、最初から全部知ってたよ。復讐目的で近づいてきてたことも、その内容も。」
「もしかして…ママから…?」
「明乃さん、俺の父親の友人。」
「………本当に私…バカみたいじゃん…」
復讐心を抱いて近寄ったことを知られて、このまま新と人生共にしていくなんて絶対に嫌だ。
「本当、私って醜い。」
「その卑下する癖、なんとかしろよ。バカ。」
「あー!また人のことバカにした!」