第一王子に、転生令嬢のハーブティーを II
以前一度だけ交わした口づけ。あれは、アリシアの中ではなかったことにされているのではないかとイルヴィスは疑っている。
あの時、彼女は一瞬だけ驚いたように自分の唇を触っていたが、それ以上の反応がなかった。場合によっては泣かれたり怒られたりするのではないかと覚悟していたが、無反応なのは結構堪えたものだ。
そんなイルヴィスの思いなど知る由もないアリシアは、再び足を滑らせて抱きついてきた。
ただの事故なのに、アリシアに抱きつかれているという状況を妙に喜んでしまっていた自分は今考えてもずいぶんと単純である。
……とまあしかしそんな様子だったため、アリシアにこう何度も謝られては逆に罪悪感が芽生えてくるのだった。
「まあまあアリシア殿。イルもこう言っているのだから頭を上げると良い」
カイが、まだ申し訳なさそうにしているアリシアの肩をポンと叩く。すると今度は素直に顔を上げた。
(……何故こいつが言えば聞くんだ)
少々モヤッとする。が、その程度でいちいち嫉妬していては身がもたない。
アリシアは本人が思っている以上によくモテている。
誰が見てもまず美人だと認めるであろう容姿に、人目を惹きやすいターコイズブルーの髪。
好奇心の強さからたまに令嬢らしからぬ行動力を見せたりするが、基本的な礼儀作法などはきちんと身に付いているし、貴族令嬢としてもまあ合格点だ。