溺愛音感
ちょうどカフェモカを啜ろうとしたところへ浴びせられた質問に、再び咳き込みそうになる。
「……ど、どう、とは?」
「単なるペットと飼い主の関係なのか、同居人なのか、セフレなのか、それとも……恋人なのか。二人の関係に見当がつかない」
「え、ええと、それは……」
恋人ではないことは、はっきりしている。
けれど、いまの関係を説明する適切な言葉が思い浮かばない。
九十九曲弾き終えるまでの関係、というだけでは正しくない。
ペットと飼い主というのも、一部は当てはまるけれどすべてではない。
セフレではないけれど、単なる同居人とも言い難く……。
悩むわたしを見かねたのか、雪柳さんは質問を変えた。
「質問の仕方が悪かったか。柾は、どんな男だと思う?」
「俺様で、毒舌なオジサン。外見は王子様で若いけど」
わたしが即答すると、雪柳さんはニヤリとした。
「そのとおりだ。騙されているわけじゃなさそうだな。柾は、昔から童顔がコンプレックスなんだ。視力は悪くないのに眼鏡をかけているのも、ビジネスで舐められないようにという健気な努力だ」
「それに……俺様で王子様で御曹司だけど、家事万能で料理上手」
「凝り性だからな。一度始めたら、とことんまで突き詰める」
「でも、居酒屋の冷凍えだまめも美味しそうに食べてた」
「御曹司だが、雑食だ。B級グルメも好きだぞ? 時々、無性にチェーン店の牛丼を食べたくなるらしい」
「ふうん?」
「それだけか?」
「それから……ピアノがすごく上手い。プロになれたんじゃないかと思う」
「確か、学生時代にコンクールで入賞したと聞いたことがある。『KOKONOE』の跡取りでなければ、音楽の道に進んだかもしれないな」
(コンクール……どうりで、上手いはず……)
世の中、上手くてもプロにならない、なれない人はたくさんいる。
「それから?」
「シスコン」
「よくわかったな?」
雪柳さんは、堪え切れないというように笑い出す。
「スマホに妹の……椿さんの写真があった。雪柳さんと一緒のも」
「俺と一緒の? いつ撮ったんだ、アイツ……。それで、俺の顔を知っていたのか」
「うん。椿さんが雪柳さんと再婚して幸せになるのは嬉しいみたいだけど、寂しがってた」
「――っ!?」
今度は、彼が咳き込む番だった。