溺愛音感
「参ったな……そんなことまで話してるのか。柾は」
照れくさそうな表情で、くしゃりと髪をかき上げる仕草が色っぽくて、ちょっとドキドキしてしまう。
「どうやら、柾はハナにすっかり心を許しているようだな?」
「それは……どうかな……」
マキくんがわたしのことを知っているほど、わたしはマキくんのことを知らない。
過去のことも、現在のことも。
「話を聞く限り、ハナには取締役社長としてではなく、ありのままの姿を見せている。家族や友人でもないのに、そんな風に無防備な姿をさらすのは特別な相手だからだろう」
「……犬だと思ってるから、かも」
素直にその言葉を受け入れられずに自虐を口にしたら、あっさり肯定された。
「そうかもな」
「――っ!」
涼しい顔をしている雪柳さんを睨むと、わずかに目元を和らげて、タンブラーからコーヒーを啜る。
「冗談だ」
(こ、この人……大人だと思ったけど……マキくんの友だちなんだから、やっぱり同類?)
「柾は、ずっと欲しかったものを手に入れたんだな」
ぽつりと呟かれた言葉の意味がわからず、首を傾げる。
「よろしく頼むよ、ハナ」
何をよろしく頼まれたのかわからないが、取り敢えず頷いておいた。
それからは、高校時代のマキくんとの思い出など、他愛のない、しかし興味深い雪柳さんの話を聞いているうちに、カフェが混み出す。
時計は十二時を回ったところ。
ランチタイムだ。
「あの……」
雪柳さんもランチタイムなのではと思い、訊ねようとした矢先、彼は腕時計を一瞥して立ち上がった。
「そろそろ、会議も終わる頃だろう。社長室まで連れて行く。おいで、ハナ」
差し出された手をうっかり握りそうになって、慌てて手を引っ込める。
雪柳さんは、そんなわたしの様子を見て、再びニヤリと笑った。
「残念。騙されないか」
(この人やっぱりマキくんの友だちだ……腹黒い……)