溺愛音感
「会長は、ご存じなのですか? 社長が彼女とお付き合いされていることを」
「会長は関係ない」
「ですが……」
「秘書の仕事は、あくまでもビジネスを円滑に進めるためにサポートをすることであって、プライベートについて意見することではない」
「差し出がましいことを口にし、申し訳ありませんでした」
それ以上の口出しは許さない、そうはっきりと線を引いたマキくんに、中村さんは頭を下げ、わたしにも謝罪した。
「ハナさんにも、大変失礼なことを……休日以外の社長のスケジュールを知りたければ、わたしにご連絡ください。社長が捕まらない、帰宅が遅すぎるなどのご不満がある場合も。記念日などあれば、できる限り会食、接待の日時も調整させていただきますので」
謝罪の言葉と親切な申し出、申し訳なさそうな表情。
完璧で、だからこそ彼女の声に滲む「敵意」と「牽制」が余計に際立って聞こえた。
連絡を取ることなんて絶対になさそうだと思いつつ、差し出された名刺を受け取ったのは、それが大人の対応だと思うから。
この上、彼女のジャッジに、「子どもっぽい」と付け加えられたくはなかった。
(中村 梨沙――NAKAMURA RISA)
肩書は、社長秘書。
こんな大企業に勤めるくらいだ。
きっと、有名大学出身で、マナーも社交術も完璧で、公私ともにマキくんを支えられる自信も経験もあるのだろう。
彼に相応しいのは、わたしと彼女のどちらかと訊ねれば、百人中百人が彼女を選ぶ。
わたしを含めて。