溺愛音感


わたしのつむじにキスを落とし、そのまま抱えあげたマキくんは、バスルームへ向かった。

いつものように、ヘアサロン並みの技術でわたしのシャンプーをし、隈なく全身を洗って筋肉や脂肪の付き具合をチェックし、ドライヤーとブラッシングで毛並みを整え、とルーティンワークをこなす。

その後、マキくんが淹れてくれたミルクティーで水分を補給してから、広いベッドの半分に(現在、シャチのぬいぐるみがキングサイズのベッドの約半分を占領しているため)、並んで横たわった。

いつもなら、マキくんがわたしを転がして背後から抱きしめるところだが、今夜は自らその腕の中に転がり込んだ。


「どうした? ハナ。今夜は積極的だな?」


ちょっぴり嬉しそうなマキくんは、すかさずわたしの額や鼻にキスをする。


「マキくん……明日は、お休み?」

「ああ。突発的な問題には対応しなくてはならないが、出社の予定はない。どこか行きたいのか?」


どこかへ行きたいというよりは、どこへも行きたくなかった。
ずっと、ぴったりくっついていたい気分だった。


「ううん……マキくんと一緒にいられるなら、どこも行かなくていい」

「…………」


素直な気持ちを言葉にしてみたら、いきなりぎゅうっと力任せに抱きしめられ、窒息しそうになる。


「ま、マキく……し、し……」


バシバシとその背を叩き、ようやく解放された。


「マキくん、何するのっ!? 肺がつぶれるところだったよっ!」

「ハナがあまりにもかわいいことを言うからだ」

「か、かわいいこと?」

「気にするな。それより、ハナ。焼きたての『手焼きせんべい』を食べたくないか?」

「え。食べたいっ!」


即答したわたしに、マキくんはくすりと笑った。


「よし。明日は昼から散歩に行くぞ」

「でも、この近くにそんな場所なんてあった?」


おせんべいにハマってからというもの、ほぼ毎日インターネットで情報収集に勤しんでいる。

その結果、近くに出来たての手焼きせんべいが食べられる場所はなさそうだという結論に至っていたのだが……。

首を傾げるわたしを見て、マキくんはニヤリと笑った。


「自分で焼くんだ」

「自分で? でも、マキくん前に作れないって言ってなかった?」


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