溺愛音感
「幼な妻って……わたし二十五で、立派な大人なんですけど」
一度経験しているからか、昔ほどショックは受けなかった。
こういった記事を鵜呑みにする人もいれば、まったく気にも留めない人もいるのはわかっているし、いまのわたしの周りにいる人たちは、他人の言葉よりわたし自身の言葉を信じてくれる。
「ふふ、そうみたいね」
わたしの抗議に目を見開き、くすりと笑った彼女は、色白で華奢。黙っていれば、儚げな印象を受けるだろう。
まさに高嶺の花。
でも、冷たさはまったく感じなかった。
そのまなざしも、微笑みも、ちゃんと血の通った温かいもの。
初対面にもかかわらず、こんな記事を書かれたわたしを見下すような素振りは微塵もない。
「その部分は、記者が勝手に付け加えたんじゃないかしらね? リークした人間の標的は、あくまでも柾さんではなく、あなただったと思われるし」
「あの……リークって……内部の人間が情報を流したってことですか?」
大企業を背負うマキくんの足元を掬おうとするなら、まだわかる。
すでに落ちぶれているわたしをさらに貶めることで、得をする人間が『KOKONOE』の社内にいるとは思えなかった。
「柾さんの写真を撮るには、ある程度彼のスケジュールを把握していないと難しいわ。彼、とても忙しい人な上に、決まりきった行動は取らないし。さっきのホテルのレストランにもそれらしき人物がいたもの。まちがいないわ。元見合い相手とニアミス、修羅場寸前、なんて記事にするつもりだったんでしょう」
「えっ!?」
驚愕するわたしに、花梨さんはいまごろ彼女の「ボディガード」が捕まえて、正体を突き止めているはずだから心配いらないと言う。
「誰の仕業かなんて、バレバレよ。あなたをホテルに呼びつけた人くらいしか、思い浮かばない」
「え……」
(まさか……中村さんが?)
さすがに名前を口にするのは憚られた。
わたしをここに呼び出したのは確かに彼女だったが、その目的はわからない。
ましてや、わたしのことについて中傷記事を書かせようとするなんて、ますますわからない。
「どうして、こんなこと……」
「彼女の本心は、彼女が語ろうとしなければ、誰にもわからないわね」
「でもっ」
やや首を傾げて考え込んでいた花梨さんは、ぽつりと呟いた。
「安易な推測をするとすれば……嫉妬、かしら」
「嫉妬?」
「あからさまな態度ではないけれど、わたしに対しても隠しきれない敵意が滲み出ているし。彼女、柾さんの亡くなられた元彼女の親友だったそうね? 二人がお付き合いをしていた頃から……もしかしたら、その前から、柾さんのことが好きだったのかもしれないわ。単純な恋心ではないかもしれないけれど、秘書以上の気持ちはあるでしょうね」
「…………」
マキくんが熱を出して倒れた時のことを思い返せば、しっくりくる話だ。