カラダで結ばれた契約夫婦~敏腕社長の新妻は今夜も愛に溺れる~
清良の私物も、業者によってあっという間に運び込まれた。

が、新婚生活の舞台となるその家に、総司はまだ一度も足を踏み入れていない。

今日までずっと海外を飛び回っていたからだ。

「気に入ってもらえてよかった。困ることがあったらなんでも言ってくれ」

「大丈夫です。真鍋(まなべ)さんの電話番号もお聞きしましたし」

真鍋とは、総司の個人秘書だ。かつては総司の父親を担当していたベテラン秘書らしい。

困ったことがあればなんでも頼りなさいと電話番号を預かった。

しかし、総司は静かにかぶりを振って、「そういうことじゃない」とため息をつく。

「確かに俺は海外にいるし、すぐに駆けつけられないかもしれないが。電話で妻の不満を聞く時間くらいは持ちたいと思っている」

またしても、はぁ、としか答えられない内容だ。

総司の『妻』という定義は難しい。

契約結婚で、お互い干渉し合わないことを前提としているのに、愚痴は聞いてくれるという。『愛着が湧いてきた』とも。

彼の中で、どこからどこまでが妻の仕事なんだろう……。

聞いたところで、彼もきちんとした答えはくれないと思う。手探りでボーダーラインを見つけていくしかない。
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