デラシネ
澪の家までは15分程度。あっという間なのかもしれない。だがこんな夜道を一人で歩かせるだけの度胸は俺にはない。さっきのが良い例だ。夜道が危険であることをもっと自覚していただきたいところだ。
「疲れているのにごめん、ありがとう」
「いや、いい。また来いよ」
「うん」
それだけ言葉を交わす。今日の澪はいつもよりも寂しそうだった、悲しそうだった。それでも弱音は吐かない。抱きしめたくなるその小さな身体。今日もまた踏み出せずに終わっていく。彼女に背を向けて足を出す。
”デラシネ”。フランス語ではぐれ者、故郷を失った者を意味する。「何でこんな名前をお店に付けたの」そう言って不思議そうな顔をしていた。澪には何もかも失っても逃げ込める場所であると良いなと思って決めたと伝えたが。本当はまだ続きがある。