デラシネ
「朔(サク)ちゃん」
澪の泣き出しそうな声に苦しくなる。澪の前に歩を進め、向き合う。
「ちゃん付けはやめろ」
澪の頭を軽く小突く。瞳を潤ませて俺を見る澪の表情にもう敵わないなと確信した。ひとつ息を吐く。
「おいで、澪」
両手を広げ澪を呼ぶ。澪はゆっくりと俺の胸にやって来た。優しく包まないとつぶれてしまいそうな柔らかい澪。でもしっかりと、確かに澪を抱きしめた。
澪はいつもどんな時でも一生懸命。頑張る姿は輝いていて眩しいくらい。そんな澪が俺は好き。だけど澪が何もかも放り出して逃げ出したくなったとき、その場所が”デラシネ”だったら良いなんて。例え何も持っていなくても、その身一つであろうとも俺は受け入れる。澪のひとつの居場所、ひとつの世界であったら良いなと。そんな願いを込めた。
澪のためだけに名付けた店だなんて恥ずかしいけれど。それだけ俺は澪しか見えていない。