捨てられたはずが、赤ちゃんごと極上御曹司の愛妻になりました
 ひと晩明けた翌日。

 いろいろと考えに耽っていたせいで寝つきが悪くなり、起きるのも遅くなってしまった。
 スマホを見れば、時刻はもう十時を過ぎたところ。

 私はむくりと身体を起こし、ゆっくりとロフトから降りた。

 テレビをつけてボーッと眺め、十一時になる頃にようやくキッチンへ向かった。
 その間もずっと、ぐるぐると昨日の自分の言動を思い返していた。

 私、客観的に見て相当浮き足立ってた?
 佐渡谷さんに気づかれるくらい浮かれていただろうか。ああ、もう消えてしまいたい。

 ぎゅっと目を瞑って固まっていたら、ピピピッとガスレンジの警告音が聞こえた。私は慌ててスイッチを押し、フライパンの上で茶色くなった卵焼きを取り出した。

「あ~あ……」

 今日は甘い卵焼きにしたせいで焦がしてしまった。いや、味付けのせいではなく、料理中にぼんやりしていたのが理由なんだけど。

 ――『きみは料理を前にすると表情が一段と明るくなる』

 ふいに佐渡谷さんの言葉が脳裏を過る。

 異性にそんなふうに言ってもらった経験がなかったから、やけに印象強く残ってる。
 ……うん。そうだ。言われ慣れない言葉だったから。
 決して、『彼だから』というわけじゃない。

 朝昼兼用の食事を終え、キッチンの片づけの流れで部屋を掃除する。掃除機をかけながら、ふとかけ時計を見上げた。

 昨日の今頃は……気持ちが落ち着かなくて料理してたな。今は余計なことばっかり考えちゃうからって掃除に集中してるし……地味な女。

 スタンドミラーに映る自分と目が合って、思わず鏡の中に映る人を嘲笑う。

 再び掃除機のスイッチをいれようとした瞬間、髪を留めていたクリップが外れて落ちた。一気に髪が解け、下を見ていた私の視界に入る。

 胸元で揺れる毛先に、昨夜の記憶が蘇る。

 ――『下ろしていても似合う。綺麗な黒髪だ』

 重症だ。こうしてなにをしていても、意識していなければ彼の言動を思い起こしてしまう。

 私はそんなにも佐渡谷さんのことが……?

 自問自答しかけたが、ふるふると首を横に振った。
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